「決め球と球数」

とある試合でのこと。

登板した投手の投球内容を見ていて、個人的に気になることがあった。

後日、その投手と個人的にミーティングをすることにした。

今回の議題は、

「どうしても打者を抑えるまでに球数が多くなってしまう」ということ。

その投手は、ストレートにも変化球にもキレがある。

十分にストライクゾーンで打者と勝負できる投手だ。

制球力に大きな課題があるのかと思えば、そこまで明らかにばらつくわけでもない。

だが、1イニングを0点に抑えてきても、どうしても球数が嵩んでしまう。

こういうピッチングを続けていると、

「抑えているにもかかわらず試合のリズムが作れない」

そんな試合展開となる。

チーム全体の士気にも影響してくる。

目に見えるエラーのような問題ではないからこそ見落としやすい。

しかし、選手にとってもチームにとっても大切な課題であることに違いはない。

そんな思いから話をしていると、面白い話を聞くことができた。

そして、

その課題を改善するヒントが、普段の練習の中にあることが見えてきた。

同じく悩む選手もいるはずである。

今回の記事もどこか参考にしてもらえれば幸いである。

まず、その選手に今の投球に対する私の印象を伝えた。

「ストレートの状態も良くなっているし、変化球の質も上がっている。ストライクゾーンで十分勝負できると思うけど、どう思う」

すると、

「前の指導者に、ストライクからボールになる球を練習しなさいと言われました」

という答えが返ってきた。

その投手は、以前指導を受けていたコーチからのアドバイスを素直に受け止めて、今まで真面目に練習してきたのだと思う。

その話を聞いて、そこに私の考えを重ねてみた。

ストライクからボールになる球は、もちろん大事な球。

なぜなら、それは「決め球」になる球だからである。

「決め球」いわゆるウィニングショットは、

打者を抑えるためには必要不可欠であり大事な武器となる球。

それだけに、威力も精度も必要になる。

よって、決め球を練習すること自体は間違っていない。

ただ、ここで一つ伝えたい事がある。

それは、「決め球」を1試合で何球投げるのか。

仮に先発投手が9回を投げ切ったとして、3アウトすべてに決め球よ要したとしても27球。

1試合に120球投げるとすれば、約2割。

中継ぎで1イニングを投げるなら、15球前後。

そのうち3つのアウトをすべて決め球で取ったとしても3球。

わかりやすく数字で説明をしているが、

全て決め球で決着がつくとも限らない。

中には決め球に至るまでに決着がつく場合もある。

そうなれば、より決め球の球数は減るということでもある。

であれば、どのような球をより多く投じる必要があるのか。

試合の中で主に投じる球は、「カウントを整える球」である。

となれば必然的に、試合で多く使う球をより練習する必要がある。となる。

その選手の普段の練習を振り返ってみると、決め球の練習に多くの時間を使っていた。

その一方で、

試合の中でより多く使う「カウントを整えるボール」については、そこまで深く考えていなかった。

だから試合になると、カウントを作れない。

結果として、無駄なボールが増える。

そして、球数も増える。

これは、制球力の考え方にもつながってくる。

制球力とは、狙ったところに投げる能力。

でも、投手にとっての制球力の第一歩は、まずストライクゾーンに投げる能力ではないかと思う。

ストライクを投げる。

すると、打者は何かしらのアクションを起こす。

スイングする。

空振りする。

打ち損じる。

凡打になる。

タイミングが合わずファールになる。

そこには、次の投球につながる「情報」がある。

一方で、ボール球を投げたらどうなるか。

多くの場合、打者は見逃す。

それだけで終わってしまう。

得られる情報量が全く違う。

ストライクを投げるからこそ、打者が動く。
打者が動くからこそ、次の情報が得られる。

だから、試合が動く。

意図していないボール球を何球も投げ続ければ、

間延びや疲弊、その他選手たちの力みなんかにも繋がってしまう。

チームにとってマイナスになる要素が増えていくのである。

普段のブルペンでのピッチング練習を思い返してみてほしい。

例えば30球を投げたとする。

その30球の中で、

本当に意図して投げたストライクは何球あったのだろうか。

感覚が良かった。

ボールが走っていた。

変化球が良かった。

そんな感想ももちろん大事。

しかし、それは本当の意味でストライクだったのか。

たまたま良いところにいった球ではなかったか。

試合なら、その30球でゲームを作れていただろうか。

投手として最初にやらなければならない仕事はストライクを投げるということ。

まずはそこに向き合う必要がある。

どんな場面でも、どんな状況でも、自分が意図したストライクを投げられる。

そんな投手こそ、チームから信頼される投手なんじゃないかと思う。

そして、それは単純に「守りやすい投手」ということでもある。

投手の投球は、野手の守備にもつながっている

私は現役の頃から、仲間のエラーを責めたことがない。

なぜなら味方野手のエラーというのは自身の投球にも問題があるからである。

野手は投手の投球に合わせて守備位置を変える。

打者の特徴を事前に把握し、打球の方向を予測し備える。

そこに投手の投球がある。

もし投手が意図しない逆球を投じれば、野手も予測していた方向と違う打球に対応することになる。

野手のエラーは、野手だけの責任とは言い切れない。

投手の投球内容も、守備陣に大きく関わっているということ。

だからこそ、

投手は自身の投じる1球がチームにどう影響するのかまで考える必要があるということのである。

今回話をした投手は、

以前のコーチから言われたことを真面目に練習していた。

だからこそ、その成果も試合に出ていた。

決め球の質は上がっていた。

ストレートも良くなっていた。

変化球にもキレがあった。

ただそこに至るまでに球数を使いすぎる点、

その頑張りがチームのためになっていなかった点。

新たな課題があった。

しかしそこには目を向けず同じ練習を繰り返し続けていた。

そこに気付けない理由は、

自分自身は抑えている。結果を残しているという自覚である。

ひとつの課題をクリアしたら、次に考えるべきことは何なのか。

試合に直結した練習をイメージする。

試合のための練習を行うことが大事である。

そこに目を向け直すことで、普段の練習は変わってくる。

速い球。鋭い変化球。決め球。

どうしてもそういう「目立つもの」に目は向きやすい。

でも、本当に大切なものは、意外と目立たないところにある。

今回の出来事は、まさにそんなことを考えさせられる出来事だった。

「試合で一番多く投げる球を、本当に一番練習しているか」

野球が上手くなるためには、ただ練習するだけでは足りない。

何を練習するのか。なぜそれを練習するのか。

そして、それが試合でどう使われるのか。

そこまで考えて、初めて練習が試合につながっていく。

大切なのは、「その練習は、試合の何につながっているのか」を考えること。

目立つものだけを追いかけるのではなく、当たり前の中にある大切なものを見つける。

それが、野球を深く知るということなんだと思う。

知ることで、考え方が変わる。
考え方が変われば、練習が変わる。
練習が変われば、その先に、選手の成長がある。

これが、「考える野球」なのではないだろうか。

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