「ピッチング練習【上級編】」

初級編では、自身と向き合う練習、
「傾斜での訓練」「フォーム固め」「スタミナの強化」のお話をした。
中級編では「投げ分け」について、
相手の心理を含めた、より実践的なお話をした。
そして今回の上級編では、
数字と向き合うお話を含めて解説をさせてもらう。
これを読んで、ブルペンでの練習内容を向上させてもらいたいと思う。
それではさっそくお話しをさせていただく。
まず一つ目は「クイック」の練習。
投手はランナーを出塁させると、基本的には「クイック」を使って投球する。
その理由は、盗塁による進塁を防いだり、ランナーを次の塁に進めないための備えである。
一塁にランナーを背負い、盗塁をされない為に標準となるクイックのタイム(投手が始動して捕手のミットにボールが収まるまで)は1.25秒以内だと言われている。
そのタイムを目指した上で、
球の質は落とさず本来の投球ができないといけない。
ランナーが居ないワインドアップの投球フォームと、クイックでの投球フォームでは、
リズムもタイミングも大幅に違う。
自分の好きなタイミングで投げられないのがクイックであり、
そんな中で打者を抑えられるほどの強い球を投げなければならない。
さらに深掘りをすると、
ランナーが居るという事は投手にとってはピンチであり、攻撃陣にとってはチャンスである。
相手打線は勢いに乗って攻めてくる。
そんな難しさを兼ね備えているのが「クイック」である。
投手にとってのリズムやタイミング、さらに言うとバランスは、
少しでもズレてしまえば大きく乱れ、修正をするのにも時間がかかる。
そうさせてくれないのもクイックの難しさであり、
本来野球のプレーの先頭である投手が、自分主導でプレーできなくなる要素でもある。
簡単に「クイック」というが、その中身を見れば見るほどたくさんの課題が見えてくる。
しかしながら、
ほとんどの投手の投球練習を見てみると、
ワインドアップなど、振りかぶって投げているピッチング練習を見ることが多い。
その理由としては、「いい球を投げられて楽しいから」もしくは「考えてない」か、「わかってはいるがいい球を投げていたい」「気持ちのいい日々を過ごしていたい」そんな気持ちがあるのかもしれない。
さてここで、少し数字のお話をする。
1塁2塁3塁それぞれの塁に走者がいるか、いないか。
このパターンは何種類かご存知だろうか。
正解は、3つの塁にあるとなしの2種類なので、
2×2×2=8種類
となる。
その中で「ランナーなし」は1つだけ。
要するに7/8の割合でランナーを背負っているということになる。
約87%はセットポジションからの投球をしなければならない計算となる。
試合で100球投げたとして約87球はセットポジションの可能性があるということ。
もし100球全てをワインドアップで投じたければ、出塁を許さない投球をしなければならない。
当然、ランナーを出さないための練習も必要ではあるが、
失点を防ぐとなればランナーを背負った状況での投球が上手でなければならない。
普段のブルペンでの投球練習において、
最低でも7/8の割合でクイックの練習を行わなければならないということである。
そしてもう一つは「ケース別の投球」練習。
思い浮かぶケースを簡単に出してみるとする。
まずはストライクとボールのカウントの種類は3×4で12種類。
ランナーのあるとなしは、先ほども話したように8種類。
それにアウトカウント3種類を含めて、
8×3=24種類
ストライクとボールの12種類と合わせると、
24×12=288種類。
アウトカウント、ストライクボールのカウント、
そして、ランナーの有無だけで288種類のケースがあるということ。
そんなケースを想定しながら投球練習を行わなくてはならない。
これにプラスして、
相手は右打者なのか、左打者なのか。そんな打者のタイプは。
イニングは何回なのか、点差は何点あるのか。
表の守りか裏の守りか、球場はどこか、天候は、などケースは無数にある。
そんなことを考えるだけで、
ケースを想定せずに投球練習をすることは時間を無駄にしているように感じる。
細かな条件を省いた288種類のケースを1球ずつ練習するだけでも288球を投げなくてはならない。
全ケースの練習するとなると現実的ではなくイメージが湧きにくい。
ただいい投手になりたければ、
288種類のうちの最低でも半分以上は「得意なケース」でなければならない。
苦手なケースをどれだけ潰しておけるか、
ピンチの場面でも切り抜けていく方法をどれだけ持っているか。
ブルペンでの投球練習についてお話をしてきたが、
ただ球数を投げるだけでも、
いい球を気持ちよく投げる自己満足でもなく、
必ず目的意識を持ち練習に臨むこと。
そして、マウンドの傾斜という非日常を好きになる事。
成長のスピードとは考え方で決まるもの。
同じ時間キャッチボールをするだけでも、
低い意識と高い意識では成長のスピードは違う。
あえて当然な話をしたが、
ぜひこの記事を見てくれた人が活躍する選手人生を歩むことを願っている。
